「外国人労働者と法-入管法政策と労働法政策」(早川智津子、信山出版社)を読んで
2017年11月施行の技能実習法と2019年4月施行の特定技能が今年見直しの時期となっています。吉川法相が昨年の就任直後から見直しについて言及し、自民党の学習会が始まっています。外国人支援団体からの聞き取りも行われています。
4月には上智大学グローバル・コンサーン研究所主催で「検証・日本の移民政策」シンポジウムが開催され、この間の外国人労働者受入れ拡大について当時の自民党責任者から「自民党の外国人労働者政策――回顧と展望」を聞くことができました。「これ以上の保護法制はいらない」という率直な見解も聞くことができました。私も東海社会学会でお話させていただく機会をいただくなど外国人問題への関心の広がりを実感しています。
外国人労働者問題について人権団体からの出版や報道が増えるいっぽう、法律研究者からの出版物はあまり見かけません。そこへ早川智津子佐賀大教授の「外国人労働者と法-入管法政策と労働法政策」(信山出版社2020年3月)を紹介いただきました。筆者は冒頭で「問題の所在」として1990年前後からの外国人労働者受入れ拡大と近年(2016年頃)になっての受け入れ拡大の経過を説明しています。最近になって外国人問題に関心を持つ若い方が増えており、とても分かりやすいと思います。
著書は大まかな経過を第一部「外国人労働政策の視点」として入管法政策、労働法政策に整理したうえで第二部「日本法の状況」では、入管法によりどのような在留資格で外国人労働者が増えてきたのかを概観し、「消極的な保護」と「積極的な保護」のもとで外国人労働者がどのような状況にあるのかを説明しています。そこで筆者は入管法と労働法制との関連が重要であるとしています。先のシンポで自民党担当者が「単純労働者の受け入れはしない」としながら様々な名目で基準を引き下げてきた仕組みがとてもよくわかりました。
外国人技能実習制度については別章で現状と課題を法律的に整理しています。外国人研修制度から技能実習法施行までの経過を述べたうえで、現行の外国人実習制度は「入管法と労働法のハイブリッド法制である」としています。技能実習生には労働法に加えて技能実習法での禁止規定、罰則規定、申告権などの保護規定があるとしたうえで、賃金・待遇、雇用管理、解雇の制限などテーマごとに「実体法的請求権の根拠規定とも解しうるか」「保護の実効性を確保するか」を示しています。
「移籍の自由がないことが人権侵害」と技能実習制度廃止論の焦点になっています。著者は実習生には「技能移転という制度趣旨からみると・・・就労することにつき特別の合理的利益を認めることができる」と就労保障があり、技能実習3号への移行について「受け入れ企業が合理的な理由なく更新を拒絶することはできない」としています。また「技能実習第3号への移行に際し『本人に実習先を選択させる機会を与える』している」「「3号移行に当たって他社への転籍の足止めを目的とする教育費用返還請求は、管理費等の事後的徴収として制度趣旨に反することが多いであろう」など他の外国人労働者にはない法的保護を説明しています。そのいっぽうで高額手数料の背景でもある「労働市場分野」、とりわけ職業紹介法の国外への不適用などの不足点をあげています。
筆者はこのように技能実習法の評価と問題点を指摘したうえで、その他の外国人労働者に対しても積極的保護など労働法制の課題を提起しています。特定技能の制度についても問題点を端的に述べており、技能実習法と特定技能の見直しにむけて法律研究者の意見は大変参考になりました。
私は新著「コロナ禍に惑う外国人実習生たち」(仮題)のなかで「技能実習制度の見直しについて(私案)」を書きました。人権団体からはさまざまな意見があると思います。国の制度見直し議論にむけて各分野からの積極的な議論が重要だと考えています。そのために本書は大変参考になると思いますので、紹介させていただきました。